ウェイトベアの物語

「ウェイトベアの思い出」

これは私が母に贈った最初で最期のプレゼント（ウェイトベア）を贈った時の話です。

母はシングルマザーで、女手ひとつで私を育ててくれました。

小さい頃から愛情も笑顔もたくさん貰い、父親がいなくても寂しいなどと思った事はありませんでした。

どんなに忙しくでも私の為に時間を作ってくれて一緒に出かけたり、2人で笑いあったり、でも思春期を迎えるとそんな母がうっとおしく思うようになりました。

時には暴言を吐いたり、友達と遊ぶのに夢中で母とは一緒に出かける事もなくなり、今重思い返すと寂しそうな背中を何度も見ました。

その頃の私は1人寂しく帰りを待ってくれる母の事など御構い無しで、そのうち反抗期を迎えると母が話しかけて貰い返事もしなくなりました。

そんな時でさえ、母は笑顔を絶やしませんでした。

そして、反抗期も終わり社会人として自立してみて、お金を稼ぐという事、仕事の大変さ、仕事の合間に時間を作る大変さを思い知りました。

母は家事と育児と仕事を両立させ、疲れた顔も見せずに私を育ててくれた事に初めて気が付き、これからは母を大事にしようと思った矢先に母が倒れました。

病名は胃癌でした。

医師からは長年働き過ぎで身体がボロボロである事、何故こんなになるまで無理をしたんだと言われました。

私は泣きました、母に申し訳なくて。

すると母は昔と変わらぬ笑顔を見せてくれました。

昔と違ったのは大きく見えた母がとても小さかった事に驚きました。

病床で私が赤ちゃんだった頃の思い出をたくさん話してくれました。

とても可愛くて、自分が絶対守ると出産した時に誓ってくれたそうです。

その頃、お付き合いをしていたのが現在の主人でした。

母が手遅れである事、余命が短い事を知ると、私達の結婚式に出てもらおうと言ってくれました。

急いでお互いの親に挨拶し入籍を済ませバタバタと準備をし１ヶ月後に式をする事になりました。

母に特別な物を贈りたい、母の記憶の中にいつまでも残っている赤ちゃんの私と時と同じウェイトベアを作ってもらいました。

結婚式の日、病院から来た母は車椅子でした。

痩せてはいましたが素敵な笑顔をみせてくれました。

式の終わりに母にウェイトベアと花束を渡すと、嬉しそうに抱っこしていました。

赤ちゃんを抱くような仕草に涙が止まらなかったのを覚えています。

その２ヶ月後に母は亡くなりましたが最後までウェイトベアを手元に置いてくれていました。

赤ちゃんの私を思い出していたのか、私が最初で最期に贈ったプレゼントだったからか、今となっては分かりません。

でも、心から喜ぶ母の姿を見られて嬉しかったです。

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